包囲網

昨日、1980年6月に大阪市の原敕晁(ただあき)さん(当時43歳)が拉致された事件に関して、原さんが働いていた中華料理店など関係先に家宅捜索を行うとともに、関係者に対して事情聴取を行っています。(『原さん拉致に協力した16人判明、一斉聴取へ』(読売新聞)
事件発生後25年が経過しての捜査については、遅きに失したという意見も見られますが、これまで手が付けられなかった大きな闇に、一歩一歩近付いているように思います。

さらに、米国も北朝鮮への強硬な姿勢は維持しており、今月22日EU本部のあるベルギーのブリュッセルで「北朝鮮人権大会」が行われるなど、欧州との連携も見られます。

そして、昨日(23日)オーストラリアでは、麻薬密輸の容疑で3年前に拿捕された北朝鮮船籍の貨物船が、豪州空軍の軍事演習の標的として、海中に撃沈されました。(『だ捕の北朝鮮の麻薬密輸船、軍演習の「標的」で撃沈』(CNN)

金総書記の中国電撃訪問で、体制維持に一筋の光明が見えたかに思われた北朝鮮ですが、欧米諸国による包囲網は少しずつ狭まりつつあるようです。

それから、日本とオーストラリアの関係では、米国も交えた「戦略対話」が今月18日シドニーで、麻生外相、ダウナー豪外相麻生外相、ライス米国務長官が出席して行われました。
「戦略対話」の中では、北朝鮮やイランの核開発問題とともに、躍進著しい中国に対する問題を中心に、協力関係の強化が話し合われたものと思われます。(『日米豪、初の戦略対話 中国の建設的関与を歓迎』(朝日新聞)
共同声明では「(中国の)建設的な関与を歓迎する」と表明されましたが、中国の不透明な軍事力増強に対する不信感は、参加国の中に根強く残っているものと思われます。

そして、北大西洋条約機構NATO)が連携強化に乗り出しているという報道もあります。
『NATOが日豪と連携強化へ、麻生外相を5月招待』(読売新聞)

ブリュッセル=林路郎】北大西洋条約機構NATO)は、日本、オーストラリアとの関係強化の一環として、5月初旬にブリュッセルで開かれる理事会に麻生外相を招待することを決めた。
 麻生外相は4日に日本の閣僚として初めて理事会で演説し、関係強化に向けた日本の姿勢を示す。
 NATO関係者が本紙に明らかにした。NATOは冷戦終結後、アフガニスタンでの治安維持やイラクでの治安部隊訓練、パキスタン地震の被災地支援など、欧州から離れた「域外」での任務が増えており、デホープスヘッフェル事務総長らは、アジアを中心に同様の任務を抱える日豪との連携を働きかけていた。
 NATO関係者は、日豪が「自由、民主主義の価値観」「作戦能力が高い」「国際貢献の実績」という点で、「NATOとの共通点が大きい」と評価している。日豪との関係強化は、台頭する中国を政治的にけん制する意味もありそうだ。
 NATO側は、11月にラトビアのリガで開く首脳会議に向けて協力分野を具体化させる方針で、麻生外相を招く際に、日本側と協議を詰める。日・NATO間では、人道支援や災害対処に関するNATOの演習に自衛官を非公式のオブザーバーとして参加させる案も浮上している。また、日本の幹部自衛官1人が今夏からローマのNATO防大学に留学する。NATOは、韓国、ニュージーランドとも日豪と同様の連携強化を検討している。
(2006年3月23日3時7分 読売新聞)

表向きは、災害および人道支援における協力関係の強化が主眼なのでしょうが、「「自由、民主主義」陣営の対中包囲網と見ることもできるかもしれません。

米国は、中国と並ぶ人口大国であるインドとも関係を強化していますので、着々と対中包囲網は構築されているように思えます。

一方中国も、国連に多くの議席数を占めるアフリカ連合との結びつきを、多額の経済支援や武器援助で強めるとともに、米国のお膝元ともいえる中南米諸国とも関係を深めています。

ロシアはこれまでも中国と、国際的テロ行為に対抗することを名目に中央アジア民主化の嵐の食い止めで連携してきましたが、最終的に中国と欧米諸国の対立が深刻化した場合には、日和見を決め込むのではないかと思います。

いずれにしても、包囲網と言ってもそれほどはっきりとしたものではありませんが、経済的に躍進著しい中国が、かつて日本が経験したようなバッシングを受けることはありうるでしょうし、中国の不透明な軍事力増強や、手段を選ばない資源確保が続けば、関係各国との間に無用な緊張状態を生むことになるのではないでしょうか。

そして、冷戦の孤児ともいえる北朝鮮が無謀な恫喝外交をくりかえし、一方の双生児である韓国も、肥大した自尊心から「バランサー」などという夢物語を言い出すことで、東アジア情勢は恐ろしく安定を欠くものになっています。
さらに、中国の肥大化に伴い、それに対抗する西側勢力も結束を固める必要に迫られます。
すると、中国も自陣営の強化に発展途上国を味方に付け、この東アジア地域で睨み合う国際的なパワーは膨れ上がって来ているといえるのではないでしょうか。

そのパワーバランスが崩れるか、どちらか一方がその緊張状態に耐え切れなくなったときに、思わぬ軍事衝突が起こる危険性があるでしょうし、その微妙な均衡の間でフラフラと揺れ動く存在は、両陣営にとっては大きな迷惑と言うか、頭痛のタネと言えるでしょう。

そういう意味でも、北朝鮮に対する圧力は国際情勢を見ながら慎重に行うべきでしょうが、同時に、韓国、北朝鮮ともに、自国のちょっとした行動が、大きな国際問題のきっかけになりうる、そんな状況が東アジアで発生している事実に気付くべきでしょう。
まあ、両国ともに気付いているのでしょうが、それは決して両国の国際的影響力が増したからではなく、かつてヨーロッパであった東西冷戦の構造が、東アジアで発生しているだけであることも、合わせて考えるべきものでしょう。
北朝鮮が自らの体制維持にその緊張状態を利用し、韓国が自らの自尊心を満足させることに使っている状況は、あまりにも愚かと言う以外ないでしょう。