『早い話が:ナショナリズムへぶれた=金子秀敏』(毎日新聞)

民主党前原誠司代表が、ワシントンで「中国は現実的脅威」と講演し、北京に行って胡錦濤(こきんとう)国家主席に会談を断られたという。
 「中国脅威論」は、中国がいま一番嫌がっている言葉。まして「現実的脅威」と言えば、虫歯の穴をようじでつつくようなものだ。中国のトップが会談に応じるはずがない。
 帰国した前原氏は言った。「言うべきことを言ったことに自信と誇りを持っている」「口だけで『友好』『友好』と言ってきた『親中派』とは違う」
 見たか聞いたか、この毅然(きぜん)とした啖呵(たんか)、一度言ってみたかった。自民党山崎拓・前副総裁は前原氏の狙いをそう読んで「ナショナリズムの方向に国民を誘導するのは許されない」と厳しく批判している毎日新聞19日付夕刊)。
 中国には反日ナショナリズム、日本には嫌中ナショナリズム。前原発言を「国益貫く路線支持したい」(産経)「責任政党としての自覚を示した」(読売)と、持ち上げた社説もある。
 しかし山崎氏は「(前原外交を)称賛するのは間違い」と語り、国民のナショナリズムを抑制するのが政治の任務だと警告している。政治家がナショナリズムに媚(こ)びるのは、民主主義では禁じ手である。
 小泉純一郎首相は、靖国神社参拝で中国との関係は悪い。だが、「中国の発展は脅威ではなく、日本のチャンスだ」と「中国脅威論」を繰り返し否定している。では、自民党は責任政党ではないのか
 ブッシュ米大統領は、米中貿易摩擦を抱えているし、台湾には中国のミサイルに対抗する武器も売っている。それでも「中国は非常に重要な国」と言う。大統領は国益を損なう土下座外交をしているのか。
 脅威を脅威と呼ばないのは、脅威の低減を目指すための外交の作法なのだ
 野党の党首だろうが与党の党首だろうが、いきなり「新任ご挨拶(あいさつ)」の名刺を外国の首脳に突き付けて、言い放題言わせてもらいますでは、だれだっていい気持ちはしないだろう。
 米国のゼーリック国務副長官が、中国高官の歓心を買おうと接待に知恵をしぼった話を前回紹介した。米国は、中国の中枢部に親米人脈を築く努力を怠らない。腹を割った話をするには、まずお互いの信頼関係が大前提だからである。(論説委員

>政治家がナショナリズムに媚(こ)びるのは、民主主義では禁じ手である。

他国の軍事的脅威に言及することが、ナショナリズムに媚びることなのですか・・・。

小泉純一郎首相は、「中国脅威論」を繰り返し否定している。

でも、首脳会談は拒否されたままですよね。
それに、前原代表は靖国参拝には反対してますよね。
結局、中共政府って、日本人が少しでも気に入らない言動をすると、会談拒否するように思えるのですが・・・。

>脅威を脅威と呼ばないのは、脅威の低減を目指すための外交の作法なのだ。

金子さんも「脅威」だということだけは、一応認めているのでしょうか?
それから、軍備増強に励む国があっても、そのことには触れないで、仲良くすることが、外交の作法なんですか・・・。

今日、麻生外相も、中国が日本にとって軍事的な脅威になりつつあるとの考えを示したようです。
ということは、麻生外相も「外交の作法」がまったく分かってないということですね。(笑)


《12/25追記》
毎日新聞によりますと、麻生外相の発言も「波紋を広げている」そうです。
『<麻生外相>中国「脅威」発言、政府見解より踏み込む(毎日新聞)12月23日12時2分更新
少しずつ記事を引用させてもらいながら見ていきたいと思います。

麻生太郎外相が22日の記者会見で中国の軍事力増強について「脅威」との表現で懸念を表明したことが、波紋を広げている。民主党前原誠司代表の「脅威論」に同調したものだが、政府見解では中国を「脅威」とまで位置づけていないためだ。日中関係が険悪な中での踏み込んだ発言に、中国側は反発している。

「波紋を広げている」というのは、具体的に何処で波紋を広げてるんでしょうか?
中国でってことですか?
それとも、中国と毎日新聞社内でってことですか?
私のような者にも分かるように、もう少し具体的に書いていただけたらと思います。

◇民主・前原氏に同調
 麻生外相は会見で、中国を「現実的脅威」とする前原代表の発言に同調。「かなり脅威になりつつある」との表現で、軍事費の透明化を促した。
 前原代表と歩調をそろえた形の発言だが、政府は中国が「脅威」との見解を取っていない。

前原氏は「現実的脅威」と発言。
麻生外相は「かなり脅威になりつつある」と表現。
「かなり脅威となった」としていない以上、軍事費の透明化を促したことも含め、同調したとはいえないのではないでしょうか?

防衛庁によると「脅威」(threat)とは日本侵略の「能力」と「意図」が結びついて顕在化するもの冷戦時代の旧ソ連に対してさえ、防衛白書は「潜在的脅威」(potential threat)としか言ってこなかった経緯がある。 中国が公表した今年度の国防費は前年度比12.6%増の2447億元で、過去5年間で約2倍に膨らんだ。05年版防衛白書は「軍の近代化の目標が、中国の防衛に必要な範囲を超えるものではないのか、注目していく必要がある」と警戒感を示しつつ「脅威」との表現は回避している。

麻生外相の「かなり脅威になりつつある」という発言は、「脅威」が顕在化しつつあるという意味に近いと思われ、どちらかといえば、「現実的脅威」よりも、「潜在的脅威」という表現に近いのではないでしょうか?

麻生外相は今月7日のアジア外交演説で中国の台頭を「待ち望んでいた」と中国側に前向きなメッセージを送ると同時に「軍事面での透明性に欠ける」と注文をつけていた。「脅威論」に一気に踏み込んだのは、前原氏の発言に刺激され思わず持論が飛び出したものとみられる。

麻生外相の発言を、一気に前原氏に同調したものだと決め付けて大騒ぎするのは、靖国参拝問題がもはや中国側の外交カードとして機能しなくなったことで、毎日新聞がこの発言を新たな外交カードに仕立て上げようとしたものとみられるかも。

安倍晋三官房長官は22日午後の記者会見で外相発言について「中国は国際社会の中で責任ある国として軍事費の透明性を確保すべきであり、麻生外相もそういう観点から言ったと思う。基本的な考えとしては(政府内に)大きな違いはない」と説明。閣内不統一との見方を否定しつつ「脅威」との直接的な言及は用いなかった。外務省は中国の台頭を「脅威」でなく「チャンス」と捉えつつ、国防費の透明化を促す立場を取っている。それだけに外相発言について「『内容が極めて不透明ということであれば、かなり脅威になりつつある』という前提つきの発言で、政府見解を踏み外したものではない」(外務省幹部)と説明するなど、火消しに躍起となっている。【佐藤千矢子】

「基本的な考えとしては(政府内に)大きな違いはない」というのは、普通に考えればそうでしょう。
それから、「中国の台頭」という言葉が使われる場合にも、経済面と軍事面をそれぞれ個別に指して使われることもあり、その部分だけを抜き出して考えるのではなく、前後の文脈も含めて判断する必要があるのでしょう。
というのも、私は政府関係者が、中国の軍事的台頭を「チャンス」と捉えているという発言をしたのは、寡聞にして知らないものですから。

■麻生外相発言の要旨
 (中国の軍事力の)内容が外にはなかなか分かりにくいというのは、透明性という点に関しては不信感をあおる。前原さんが言っている(中国が)脅威で、不安をあおっているというのは確かだと思う。隣国で10億の民を持って、原爆を持って、軍事費が毎年2ケタの伸び、連続17年間、内容がきわめて不透明というんだったら、どんなことになるかなあということに関しては、かなり脅威になりつつある。そういう意識はある。

最後に麻生外相発言の要旨が載っています。
これを読めば、「中国の軍事力の透明性に問題があるために、少ない情報からしか判断できず、その少ない情報から判断するとしたら、かなり脅威になりつつあると思う」くらいの意味だと思います。

ということで、昨日引用した毎日新聞の記事の表現を借りて、『麻生外相も「外交の作法」がまったく分かってないということですね』と私が書いたことも、表現が適切でなかったかもしれません。(苦笑)
まあ、もともとの「外交の作法」というもの自体もあやしいのですが・・・。