『【社説】寛仁さま 発言はもう控えては』(朝日新聞)

皇位継承のあり方をめぐり、天皇陛下のいとこにあたる寛仁(ともひと)さまの発言が相次いでいる。

 昨年、会長を務める福祉団体の機関誌に随筆を寄稿したのに続き、月刊誌「文芸春秋」などでインタビューに応じた。さらに産経新聞と、同社が発行する雑誌「正論」にインタビューが載った。

 初代の神武天皇から連綿と男系が続いているからこそ皇統は貴重なのだ。戦後に皇籍を離れた元皇族を復帰させるなどして男系維持を図るべきだ。いずれもそうした趣旨の発言である。

 小泉首相から皇位継承のあり方を諮問された有識者会議は、女性天皇やその子の女系天皇を認める報告書をまとめた。政府はこの報告書に沿って皇室典範の改正案を準備中だ。

 寛仁さまの発言は、この報告書や首相の方針に異を唱えるものである。

 だれを天皇とすべきか。皇位継承天皇制の根幹にかかわる問題だ。国民の間で大いに論議しなければならない。

 皇族にも様々な思いはあるだろう。自らにかかわることだけに当然だ。だが、それを外に向かって発言するとなると、どうか。改めて考える必要がある。

 当事者である天皇や皇族がどう考えているのかを知りたいと思う人もいるだろう。自由に話をさせてあげたらいい、という人もいるにちがいない。

 皇太子妃の雅子さまが体調を崩したときに、私たちは社説で、心のうちを率直に語ったらどうかと主張した。

 しかし、今回の一連の寛仁さまの発言は、皇族として守るべき一線を超えているように思う。

 寛仁さまはインタビューで「皇族は政治にタッチしないという大原則があります」と述べている。その大原則に反するのではないかと考えるからだ。

 憲法上、天皇は国政にかかわれない。皇位継承資格を持つ皇族も同じだ。

 寛仁さまは皇位継承については「政治を超えた問題だ」と述べている。歴史や伝統の問題ということだろう。

 しかし、天皇制をどのようなかたちで続けるかは国の基本にかかわることで、政治とは切り離せない。まして、いまは政府が皇室典範の改正案を出そうとしている時期である。

 たとえ寛仁さまにその意図がなくても発言が政治的に利用される恐れがある。それだけ皇族の影響力は大きいのだ。

 天皇は日本国民統合の象徴だ。国民の意見が分かれている問題では、一方にくみする発言は控えた方がいい。これは皇族も同じである。

 天皇陛下は記者会見でたびたび女性天皇皇位継承について質問されたが、回答を控えてきた。皇太子さまも会見で質問されたが、やはり答えなかった。

 おふたりとも、憲法上の立場を考えてのことにちがいない。

 寛仁さまひとりが発言を続ければ、それが皇室の総意と誤解されかねない。そろそろ発言を控えてはいかがだろうか。

マスコミの皆さんは、記者会見で天皇陛下や皇太子さまにはたびたび質問しておいて、寛仁さまのご発言には「もう控えては」ですか・・・。
まあ、朝日新聞の記者の方々は、そのような質問はされたことがないのでしょうけれども。

天皇制そのものが、極めて政治的な問題であることには同意しますが、政治的に重要な意味を持つ発言に対して、「発言を控えてはいかがだろうか」などと言い出すことは、その理由はともかく、極めて政治的な言動であると受け取られても仕方が無いと思います。
中立公正であるべきジャーナリストととして、その影響力の大きさも考え合わせたとき、「一方にくみする発言は控えた方がいい」と言いながら、言論の封殺にかかることは、問題がないのでしょうか?

私は、マスコミによる政治的なメッセージの発信に反対しないのと同じように、皇室の方々が政治的なメッセージを述べられることに反対はしません。
そのメッセージを受け取る側が、そのことを好ましいことか、好ましくないことかの判断をすれば良いと思っています。

ただ、「人権」や「言論の自由」について、その守護者のように思ってきた朝日新聞が、「そろそろ発言を控えてはいかがだろうか」などと言い出したのには、少々驚きました。